桜木町と神戸と讃岐うどん2006-11-30 Thu 04:08
私の小説で桜木町というところが出てきましたが、アレは最初は神戸のハーバーランドでした。しかし、私はこの小説をノートに書いてたときは香川県の予備校の寮にいて、ハーバーランドのことをあまり自信を持って「カップル量産の名所」みたいに書けませんでした。しかもその時通っていた予備校の食堂のメニューがことごとく「〜うどん」だったので、私はうどんを見ただけでジンマシンが出そうになるほどうどん嫌いになっており(今は大好き。)、面白そうだから、ハーバーランドをうどんの名所みたいに書くことにしてしまい、実際わたしのノートには、ハーバーランド=うどん、みたいな場所で書いてありました。
うどんの名所ハーバーランドにはカップルがしこたま居て、そして綺麗な夜景を見ながらうどんをすする、よく考えてみれば意外とありがちな光景なので笑えますね。 実際の桜木町なんて、海の方に行くと確かにカップルがいい感じで座り込んでいて、見ていて目に安しという感じなのですが、たまにみかけるのが、なんかパクついてるバカップルなんですよね。 それぐらいならまだ何とかできるんですが、たまに見かけるのが、男同士のカップルです。...やばいです。遭遇すると大変気まずいです。タダでさえこけし見本市みたいになってる場所にさらにキッカイな輩が! こんな感じの桜木町、実際行ってみると高松のサンポート高松の方がカップル向きだということが判ります。 みなさんも、クリスマスはサンポート高松に行かれてみてはどうでしょうか?すぐ近くに、全日空ホテル「クレメントホテル高松」って言ういいホテルがありますし。 |
オブラート越しのふたり2006-11-28 Tue 20:16
オブラート越しの二人
恋人の才能を一歩退いたところから支える女、そしてその愛情を受け止めようと必死の男。しかし、人生はいつだって完全な最期を迎えるわけではない。 学生時代の経験から死を冷静に見つめる女に「死に方」を与えようと苦悩する、たった数ヶ月間の物語。 |
あ2006-11-28 Tue 19:56
昨日友人に指摘されてやっとわかったんですが...
小説の前書き書いてなかったです。 ほんっと〜にごめんなさいです。 これじゃ、読む気にならないって言われたというお話でした。 (笑) |
6章2006-11-27 Mon 22:04
6章
孝子の仕事場に連絡を入れると、斉藤が見舞いに来ると言う。孝子の容態は一時的に落ち着いているように見えたが、少しずつ食べる事が出来なくなってきている。 死の足音が響きを強め始めた。恵一は雑踏の中で、大声で叫びたくなる気持ちをこらえ続け、病院へ向かう。前を歩く女性の赤いパンプスの光沢が目に付き、意地悪く恵一の記憶の中の孝子を引き出そうとする。孝子の顔がほんの少し脳裏をよぎるその度毎に、一筋、二筋、恵一のほおに美しい流線の奇跡が出来上がる。 花屋でひまわりを買い、病室へ持っていく。 「気、使わなくていいのに」 「季節の花だよ」 「...うん」 しまった、と思う。 もう、孝子は季節の移ろいを感じることも無いのだ。味を感じる事、快楽を享受する事、街を紅に染め、日の終わりを絶える事無く告げ続ける夕日に感じ入る事は、孝子から永遠に奪われようとしている。 そんなことがあっていいのか? このような神の突然の暴挙を許して良いのか? 恵一は心の支えが無ければどうなるか、自分で想像がついていた。しかし、恵一がどんなに想っても、どんなに散財しても、もうおそいのだ。孝子は自分の手元から離れる。離れて、自由を謳歌する。恐らく天国というところで孝子なりの生活を築き、恋人を作るであろう。恵一はその恋人が自分であることを祈ることしか出来ないでいる。 なんとも無様なこの男が、人の性の塑像であるように見える。 「遅くにすみません」 発した言葉とは裏腹に、斉藤が鹿のように堂々と入って来た。 「どうも、わざわざすみません」 「いえ」 ゆっくりと枕元に座り、母性とは違った、ある種の優しい顔を孝子に向ける。 「よう、元気かい?」 「おかげさまで」 「やせたな、うらやましいよ」 「ふふっ」 しばらく他愛も無い話が続いたが、突然、孝子が真剣な面持ちで切り出した。 「先輩、言いましたよね。」 「ん?」 「桜木町に行くカップルなんて、バカップルだって」 「おう、よく覚えてるな」 「そうかもしれないですよ、今なら少しわかるかも」 「ん?じゃあ、あの時は?」 「えと、あんまし判ってなかった、かな?」 「よかったじゃん、成長して」 「...」 孝子は満足そうな笑みを浮かべて、眠りにつく。 斉藤の頭に、死に別れた人のことが浮かんでいた。遠慮がちに斉藤が話しかける。 「ちょっと、いいですか?」 「ええ」 病室の外に出ると、斉藤の目じりに皴が走っているのが光の加減により判る。成熟した女性の顔には、疲れがゆっくりと出る。美しい顔立ちの人間は人生で悲しみを幾度も味わい、それが美しさを磨き上げるのだ。 「あの娘の容態は、お電話戴いた通りですよね」 恵一は斉藤の目を見るのを何故かためらった。 「ええ」 「それで、貴方は、どうなさるおつもりですか?」 「意味がわかりませんが」 「嘘ね」 斉藤が不意に、刺すような目で彼をにらむので一瞬にして彼の心は彼女の足元に這いつくばった。 「私は、孝子の幸せを考えています。ただ、これは、あまりにも急です」 「だから、このまま、あの娘をそのままにしておくわけね?」 「いや、そうじゃない」 恵一が叫びかけたので、斉藤が押さえ込む。 「落ち着きなさい」 斉藤は、昔自分の恋人が今の孝子のような状態で死んでいったことを恵一に説明した。 恵一は、孝子ともめたことを思い出し、自分に出来ることは何であろうか?と考えるが、答えが出ない。 「あの娘を救えるのは貴方なのよ」 「...」 「あの娘は、いつも貴方のことを話してた。貴方、自分が売れなかったら孝子が貴方のこと捨てて他の男とでもくっつくとでも思ってたの?」 「そうかもしれない」 「あの娘が抱いてた理想の貴方は、結局、貴方しかわからない。けどね、もう時間が無いのよ。これ以上あの娘を心配させないでちょうだい」目に涙を一杯に溜めて、震える声を孝子に聞こえないように絞って言う。 言葉が無い、とはこの事だ。 「私のせいであなたが地獄の苦しみを味わうなら、私なんて存在しないほうがいいんじゃないか」 哲学的に言って見せたこの一言が、孝子からのSOSだったのかもしれない、そう考える。 「あなたは仕事が大事じゃないの?私はあなたが仕事で成功してほしいのに!...あなたは今、仕事なんか忘れてる!」 これを思い出し、咀嚼してみる。 ...孝子は斉藤の恋人の死を見ている。人生を成就せずに死んでいった哀れな人間の死に様を。 少し繋がった。つまり、そのときから孝子の時間は、死が目の前にあるのを前提に流れ始め、皮肉にも彼女の人生を色づけ続けてきたのだ。死が彼女を見つめ続け、孝子は死の意味と対話してきたわけなのだ。 恵一はこの時成長したのだろう。成熟した大人になった恵一は翌日から孝子をホスピスへ移す。 そして、最後の仕事を開始するのだ。上質な舞台を踏み、漫才の歴史に彼の名を刻みつけるために。 もう時間が無い。しかし、かれの目は何者も到達できない境地へ達した天才の光を宿している。何を決心したというのか。無情にも時は過ぎ行く。どうあがいても、何を成しても、孝子の容態が良くなることは無いのに。 孝子は夜がやってくるのを子供のように怖がり、恵一にすがる。真っ暗な視界に数ヵ月後の孝子を納めた真っ白な美しい木箱が投影され、孝子の恐怖心をひたすらに、そしていたずらにひっかきたてる。疼痛でいびつに歪んだ自身の顔が薄い膜一枚隔てて対を成す形で投影される。恵一の行動が孝子に与える影響は大きい。 絶望 絶望 絶望 。 6章終わり、7章に続きます。 |
感想について2006-11-27 Mon 02:03
どうも、大久保でございます。
当ブログでは、小説の感想をお待ちしています。 よろしければ、コメントのところにでも書いてやってくださいませ。 m(==)m |
あれ?2006-11-25 Sat 19:13
どうも、大久保でございます。
ブログのアップを、「やったつもり」ですごしておりまして、3章以降のアップに2回も失敗しておりました。 今後はきっちりアップロードしてまいりますので、どうぞ読んでやってくださいませ。 |
5章2006-11-25 Sat 19:09
5章
孝子が担ぎこまれた先は救急専門の病院。夜の病棟の廊下に、先に担ぎ込まれたのであろう人の家族が不安な顔で座っていた。 「ご家族の方ですか?」 看護婦が聞いてきた。 「はい」 「じゃ、こちらにどうぞ」 仕事慣れだろう、看護婦は恵一に別段気を使うわけでもなく事務的に恵一を診察室らしき所へ招き入れた。 診察室で待つ間、恵一は、頭の中に何か重い物を放り込まれたまま放置される仕置きを受けているような錯覚を覚えていたのだ。自分では何もできない情けなさ、いつまでも孝子との生活が続くと思い込んでいた所に立った大きな波、これらは、恵一をミルク色の霧の中に瀕死の状態で投げ出した。 病院の白い壁に囲まれ身動きできなくなり、重い頭に振り回される感覚を覚える。それに反して段々鋭利になってくる、愛しい人を失う恐怖感。愚かなこの自分の自我はこれからの事を考えさせた。 「応急処置と、検査が済みました。」 「はあ」 恵一が腑抜けたように答えるので、医師は少し意外な表情を見せた。 「妊娠の八ヶ月、ですよね。恐らくこれが災いしたんでしょう。」 「どういうことですか?」 「はっきり申し上げますと、肝臓癌です。かなり進行していますね。初めての妊娠とのことですから、恐らくこんなものだと決め込んでいたんでしょう。このままだと、母子共に大変危険ですし、恐らく分娩する体力なんて無いでしょう。あと3ヶ月ぐらいの命でしょうが、予定日は後一ヵ月後ぐらいでしょう?」 医者の話だと、今まで普通に生きてきたのは、若さと、肝臓が沈黙の臓器といわれているぐらい、ぎりぎりまで自覚症状が出ないせいだったらしい。思えば、孝子はここ最近食欲が無いようだったが、恵一は仕事が忙しく、全く気がつかなかった。 ここで恵一に言い渡されたことは子供をどうするか、という選択が迫っていることだった。医者は、さも当たり前であるかのごとく、孝子の命に目を向けないでいた。確実に救える命を優先させたいと思っているようだったのだ。だから、医師の目は真剣だった。恵一はそれが憎かったが、孝子を救う道は恵一の目にも映らなかった。 これからの時間をどうやってすごそう? 恵一は今、孝子の言葉一言一言を噛み締めている。コーヒーに入れたミルクのように頭の中で変性し、だんだんと他の記憶と混ざり合い、トゲが取れて恵一の記憶として堆積したものを掘り起こす。 人はこのトゲを握りなおすことをしようとしない。言われたときに流した血を忘れたいために。 孝子との別離を覚悟した今、恵一の心はこれ以上無い程血まみれなので、あらゆる苦痛を感じない。麻痺した心が、逆に平静を装わせる。 もう時間が無い。手のひらに落ちた雪のように、孝子の消失の瞬間を待つしかない。 5章終わり、6章に続きます |
4章2006-11-25 Sat 19:07
4章
恵一の仕事が終わり、二人で渋谷を歩く。路上で演劇をやる若者が目に留まった。恵一と違い目に輝きがある。手に棒を持ち、ジーパンにシャツ姿のロミオが”剣”を振るう。 「あんなのでロミオとジュリエット?」 「いや、アレで良いんだ。どんなに派手な服着ても演義が悪いとそれまでなんだ」 「じゃあ、あなたには、あの木の棒が剣に見えるの?」 「そう、それが演劇の本質。」 孝子はちょっと悔しい。恵一のこう言うところは、孝子ではかなわない。恵一は夜中に独りでぶつぶつ言う癖があるが、こういう癖が芸人としての才能を引き伸ばすのだろう。孝子はいわゆる一般人なのだろう、そして恵一は特殊な人間なのだ。だからこそ、自分や生まれてくる子供のことばっかり考え出した恵一に不満をぶつけたりしたのだ。もったいないと思う心が孝子の中にはあった。 「何食べる?」 「リクエストに答えてくれるの?」 「たまにはね」 恵一の仕事は最近だんだん良くなってきた。しかし、恵一の野心はこの程度の成功で満足できるようなレベルのものではなかった、つい最近まではの話だが。孝子には恵一がなぜ売れてきたのか分かっていた。子供ができ、以前持っていた鋭さが削げ落ちてきたからだ。それが今の笑いの風潮にマッチしたのだ。孝子はそれがいやで仕方ない。やはり、以前の恵一の芸風が好いのだ。 「イタリア料理がいい。パスタが食べたいの。」 イラっとした表情を薄く伸ばして言った。 「ん、おいしいトコ調べような。」 恵一が店を調べるときは、大抵その辺の本屋に入って調べるのだが、恵一は実はもう店を決めていた。孝子のことだから、どうせイタリアンだろうし。それに、恵一は実は事前に指輪を買っておいて、今夜渡す心積もりなのだった。 ふたりは店に入り、ゆっくりとコースが進んでゆく。 「なんで最初から予約してたところに直行しなかったのさ?」 「いいじゃん、心の準備ができてなかったんだよ。」 「なにさ、それ。」 孝子の機嫌はとても良くなっている。 「今日は、大学で俺らがサークルの勧誘にひっかかった日だよ」 「うん」 要するに、二人が出会った日だ。 「うん、それでね、...えーっとね、...その」 「要領を得ないねえ、何が言いたいのさ、ほら、サクッと言っちゃいな」 「結婚しよう」 恵一が間髪入れずに、そして、搾り出すように言った。 「もういい加減、きっちり籍も入れたい。俺の仕事だってもう軌道に乗ったと言って良いしさ。」 孝子が忘れていた事を、恵一はきっちり覚えていた。恵一は、妊娠までさせておいて籍も入れないような人間ではないのだろう。 コース料理が新しい皿に変わる。そのとき少しだけ「ふたりの」時間が途切れる。恵一にはそれが救いだった。思わず舌平目のムニエルに、赤ワインを頼んだほどだ。二人の濃密な時間は程よい濃度に希釈された。 恵一のワインを持つ手に力が入る。孝子は沈黙しているままだ。しかし、その目は自分とは次元の違う人間を見上げる目、天才に凡人が向ける畏敬の念を含む目をしていた。孝子はもう恵一についていくつ心の備えが出来ていた。自分の光を恵一に照らして、彼の将来を良き物にするつもりである。 そして、体の隅々まで見透かすような目で、 「あなたの心は私に向いてるの?」 恵一はいやな予感がした。孝子が妊娠七ヶ月の頃に聞いたあの言葉が脳裏を掠めた。恵一は自分の仕事にまだ自信が持てないが、だからといって、孝子無しに自分がのし上がることはなかった。恵一はそこをどうやって孝子に表現すべきなのかまだ分からなかった。 そして 孝子の意識が消え去った。 レストランは騒然とし、ウエイターが救急車を呼ぶ。周りの視線が、このなんとも哀れなふたりに注がれるのだ。しかし、その視線は興味本位の事であり、ふたりがこの場から消え去ったら何事もなかったように会話が続けれられ、各々の日常生活がそこから枝のように派生していくのだ。 恵一の頭は真っ白。 そして、救急車の音が恵一の耳を責める。 赤いサイレンの色が恵一の心を責め立てる。 「お前はこの女の支えになったことがあったのか?」 「お前のことでこの女は経験しなくて良い苦労をしたのでは?」 サイレンがそうたずね、肩を掴んで激しく揺さぶる。 孝子の考えは恵一に伝わっていなかったのだろうか? 少なくとも恵一は、今少し理解できかけていたことを、心の闇にそっくりそのまま落としてしまったまま、孝子の手を握り続けていた。 サイレンの音が恵一を責める。 そして愚かにも恵一はようやく、ほんの少し、気づいた。二人の間を仕切っているもの、恵一自身の成長のため、孝子があえて具体的に言わなかった恵一の人生への想い。皮肉にもそれがふたりの仲を少しだけ隔てていたのだ。そう、孝子の想いというオブラートがふたりを隔てていて、それを破れるのは恵一だけだったのだ。 サイレンの音が恵一を責める。 4章終わり、5章に続きます。 |
3章2006-11-10 Fri 03:56
3章
孝子の考えが追いつかなかったのか、それとも斉藤にとって何でもないことなのか、とにかく孝子は黙りこみ、一方で斉藤は平然としている。斉藤の顔を照らす光が端正な顔立ちを引き立たせる。しかし、同時に斉藤の心の影の様なものまで投影してしまっているので、孝子は普段ならそれを見逃さないが今は無理だった。 「どうしたのさ、気が強いのに」 斉藤の言葉で我に返った。「ホスピス」の意味を孝子はまだ知らないがそれでも、十分な衝撃を受けている。 「あの...」 「ん?」 「ホスピスって言うのは?」 斉藤の口からホスピスについての説明が成された。そして、それからふたりは海沿いをずっと歩いた。 「斉藤さん、仕事楽しいですか?」 「そうね、俺の考えてたほど甘くはなかった。けどね、今はお金がいるでしょう、ほら、子供が出来たら途端に仕事できる人間に変わったりするじゃん。」 「彼は、何の仕事やってたんですか?」 「カメラマン」 斉藤が続ける 「仕事好きって言うより、カメラ好き、写真好き。でもね、今はすい臓がんの末期だから、それどころじゃあないんだよ。」 「どうして一緒にいてあげないんですか?」 「あのね、最初はそうだったんだ。彼、身寄り無いから。でもね、かえって気を使わせてたんだ。」 「でも、....」 「お、いいトコに気が付いたな?そうだよ?毎日訪ねていって、気を使わないのが本当の恋人ってもんでしょう?でもね、そうじゃない時もあるんだよ。」 「解りません。」 孝子の言葉が冷たさを帯びる。頭で理解できないものに初めて出会った。斉藤はそれを優しく受け入れようと考えた。自分にも身に覚えがある人生の通過点。そしてこの娘には自分よりも幸せになってほしいと思った。 「抗がん剤治療の日々、自分は痩せてゆく。そして何度も嘔吐する。先月からだったかな、彼がもう指一本動かせなくなったの。でね、最後の力で言ったの。」 『これ以上惨めな姿を見せたくない』 斉藤の彼が言ったのは本心からの事だった。しかし、斉藤の選択、つまり彼が死ぬまでそのままにして置く事。そんなこと、ふたり共に我慢できるのだろうか?手を握ってそのまま逝かせてあげることができないのだろうか? 「私なら、迷います。でも、結局ふたりでいます。」 「わたしに、迷いでもあると?」 「迷って、それでそう決めたんですよね?」 「うん。でも、俺の親父が死んだときは、お袋が付きっ切りだったよ。だけど、俺は俺だから。彼がそう望んだなら、そうする。」 孝子は大学でのオランダの話を思い出した。彼の国では自決権が主流である。死ぬときのスタイルを自分で決め、家族と係りつけ医はそれを唇をかみ締めながら見守る。 「斉藤さん」 孝子は、斉藤の決心に圧倒されていた。そして、東京の何万本の電気が斉藤の顔を照らし、孝子の心を責め立てる。斉藤の繊細な心理が、孝子に筒抜けだったから、余計に孝子の心を引っ掻き回すから。孝子に出来るのは、斉藤にしがみついてカタカタと現実に震える事だけだった。 それから数日後、いつもの様に斉藤が呑みに来ていて、孝子が酌をする。そこへ斉藤の携帯に電話がかかってくる。斉藤の顔から血の気が引く。斉藤の彼がもうだめらしい。 「行かないんですか?」 「ん」 「本当に行かないんですね?じゃあ、これ呑みましょう。おごりです。」 それはウオッカのビンである。 「これを呑めばそのまま朝です。斉藤さん、苦しまないで済む。」 孝子の脅し。目には涙を浮かべ、それがあふれないように踏ん張る。 斉藤にはそれが孝子にできる精一杯の優しさに映った。 「いただこう。」 「一息で」 斉藤はそれを一気に飲んだ。しかし、すぐにそれが水であることに気づく。 「どういうこと?」 「斉藤さんは、恋人が死にそうなときに、こうやって約束を守り通そうとした。すごいです。私には真似できません。でも、もういいでしょう?斉藤さん、十分我慢したじゃないですか。」 斉藤の負けだった。今まで我慢していたものがあふれ出し、同時に斉藤が走り出した。孝子が後に続く。 渋谷の病院のホスピス棟。彼が居る。 斉藤が彼の枕元に崩れ落ちる。彼の目は焦点が合っていない。昏睡により、意味の分からない言葉を発している。斉藤は心の準備なしに恋人の死に直面している。 「スケジュールが...」 「いや、そこはリバーサルで」 「そうですか、では現像に回しますよ?」 ........。一時間位の昏睡のあと、自発呼吸が薄くなってきたので、人工呼吸器が取り付けられる。 もはや死人同然の体が、人工呼吸器によって胸だけ上下している。 「ご家族は?」 「いません」 医者の目は時計に移っていて、その後次の患者のカルテをチラッと見た。 斉藤の悲痛な叫びが病棟にこだまする。そして近隣の患者は、近い将来の自分を思い浮かべ、そのまま寝入ってしまおうと努力する。 「うるせー!」 末期の患者が叫ぶ。孝子がにらみつけるが、向こうには判らない。鎮痛剤のせいだろうか、彼と同じ昏睡状態なのだろうか。 「...ありがとう、さよなら」 斉藤が何とか搾り出した一言は、彼に届いたのだろうか。その後は孝子には聞き取れなかった。しかし、斉藤の顔は穏やかだった。そして、心電図がフラットになり、医師が”儀式”を済ませ、看護婦が心電図のコンセントをそっと抜き、窓を開けた。 嗚咽が響く。孝子の、斉藤に比べて幼い心を強烈に貫く。そして夜が更ける。彼の遺体を引き取るだけに、遠い親戚らしき人が来て、社交辞令を並べ立てていた。その他人行儀な様子に孝子は少々むっとしたが、相手にする気はなかった。 斉藤の選択が正しいと言う自信は無かった。斉藤の迷いが消えるのはいつになるのだろう?そんな時がやってくるのだろうか?しかし孝子は斉藤に尋ねる勇気を持たなかった。 病院の長いすに座る斉藤は放心して、そのまま時が過ぎた。時計がそのとき朝三時を指していたのを孝子は今でも覚えている。 お腹に子供がいる孝子がこの事を思い出したのは、なぜだろう? 3章おわり。4章に続きます |
え〜っと、2006-11-08 Wed 01:35
メインである小説ですが、一週間に一回ぐらいの更新だと思ってください。短いんだからといってすぐできるわけでは無く、文章の骨格を練る段階からやってると以外に時間がかかりますので、何卒ご容赦くださいませ。
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いきなりですが2006-11-08 Wed 01:31
タイトルの横にサブタイトルをつけました。
何のサイトなのか一発でわかるようになったかと思います。 ...恐らく |
このカテゴリについて2006-11-05 Sun 00:31
さてさて、このカテゴリは、私がいろんなブログを見て、「面白い!」と思ったものを紹介しています。
ほんっと、便利な世の中になったもんです。トラックバックなんて最近までまったく知らなかったんですけどねぇ... |
夜の紅茶2006-11-05 Sun 00:27
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2章2006-11-04 Sat 01:07
ファッションの街、情報の最先端を行く街。
東京。 そんな東京の街を、あたかも外から眺めているような錯覚に陥らせる場所がある。 「月島」である。孝子は学生のときにこの街が好きで頻繁に来ていた。渋谷や新宿に比べるとあまりにも何もないその土地が持っているモノは、溢れかえってそのまま沸騰し、ふとした瞬間に消え去ってしまいそうな光の風景。孝子は「東京」からでは決して見ることのできない風景にいつも魅入っていた。しかし、孝子を吸い寄せるその風景には、孝子のようなごくありふれた大学生だったらみんな持っているような、漠然とした世の中の黒い部分が混ざりこんでいるし、孝子もそれを知っていた。 孝子は学生時代、駅構内の居酒屋でアルバイトをしていた。毎日来る客、来るたびに冗談半分で口説いてくる下品な客、他にもたくさん変わった客が来る。孝子は「酔っ払った人間からなら、自分が知らないようなことが色々聞ける」、そう思っていたし、上っ面の良い孝子は丸の内のビジネスマン相手に色んな話を聞いていた。孝子の現在の上司、斉藤も孝子の毒に中てられた人間の一人である。30代半ばで仕事もかなり重要なことを任されているキレモノであり、孝子が一番信頼している人間でもある。 孝子がまだ学生だったある日のことである。 「あんたさ、自分と同じ女性と話してて、相手がすんごいカレー臭かったら、いやだと思う方?」 「やです」 「あっはっは.....、うん、さすが俺の見込んだおなごじゃ」 「呑みすぎなんですよ、斉藤さん。」 斉藤は女性にしては豪快な性格をしている。 「でもさ、」 斉藤が続ける 「今日ね、仕事で横浜の桜木町に行ったわけ。そんでね、カップルがそりゃもう牛のフンみたいにいるんだよ。馬鹿みたいだなーって思ったわけ。」 「桜木町、行ったことないけどかなりのデートスポットでしょう?」 孝子はわざと上目使いで言った。 「では聞こう、桜木町に行くカップルとはどんな感じだ?」 斉藤は「感じだ?」を頻繁に使う。それは、話し相手に自由に話してほしいから。斉藤はどんなバカな話でも必ず相手を選ぶ。だからこんな聞き方でも問題ないと思っているし、それは斉藤の気遣いでもある。 「バカップル」 「そうでしょう?」 「ホントに愛し合ってるなら行かないって、どっかの小説家が言ってました」 「そう。あんなカップル見本市みたいなとこ、恥ずかしくて行かないものなのよ。でさ、今日行ってみたら昼間なのにいっぱいいてさ、その中の一組がカレーこぼしたわけ。彼氏の方も、優しさを見せればいいのになんにもやらずにじっと見てんの。で、そのあと、なんて言ったと思う?」 「早く答えが知りたいので降参します。」 斉藤の機嫌がだんだん良くなっていく。 「『たとえカレー臭くてもヨウコはヨウコだよ』だってさ」 「バカじゃん、その彼氏。臭けりゃ何も言わないでさっさと帰るべきでしょ?」 「それがそのバカップル、そのまま海の方に行ってた。」 ふたりは店員と客の関係も忘れて、笑った。疲れが抜ける瞬間、とでも言おうか。 「でも、斉藤さんはどんなところに彼氏と行くんですか?」 「へ?俺?」 「はい、すごく気になる。」 「よーし、では君をこの後、お勧めのスポットに連れて行ってあげようではないか」 二人は夜の東京駅を歩いた。駅を出て、歩く。斉藤の趣味は歩くこと。しばらく歩くと 大きな橋が見える。 「ここから先は良いって言うまで振り返るなよ」 斉藤が優しく言う。 高層マンション群が淡く光り、堂々とその輪郭を夜空に映している。これだけでも東京の街がいかに輝いているかが分かる。しかし、孝子は斉藤が今までどんな恋をしてきたのかが気になり始めていた。これほどの場所は東京かぶれには分からない。斉藤の女らしさの原点を見た気がした。 「よっしゃ、もういいよ。回れ右してごらん」 「.........!」 孝子を待っていたのは東京という街の輪郭だけを切り取った風景だった。強烈に余所余所しい東京のヒトの群れがまったく目に映らない、しかしそれでも「東京」だった。 「斉藤さんは、誰と来たんですか?ここ。」 「彼氏に決まってるじゃない。」 「...そうですか」 今まで斉藤の口から彼氏の話など出てこなかったし、ましてや旦那の話など一度も聞いていない。 先走ったことをしてしまった、と孝子は考えていたが、斉藤はそれが分かったみたいでこう言った。 「今はね、彼、ホスピスにいるの。」 「ホスピス?」 孝子はホスピスの意味を知らなかった。 「後、長くて半年とちょっと。かな?」 息が詰まった。 2章終わり。続きます |
どうも2006-11-04 Sat 01:04
どうも、わざわざお越しいただいて、ありがとうございます。
さて、このブログは(わりと)長い間あっためたモノを書いています。 一応のテーマは恋愛小説ですが、なんかこう、主人公やその他の人物が 病気や事故で死んじゃったり深手を負ったりするのを書く時があります。人の心をダイレクトに揺さぶる文章は、多くはヒトの人生の分岐点を描いているものであることがあります。 どれだけ書けるか分かりませんが、やはり、私のメインテーマは癒しだと思っています。使い古された言葉ですが、私の一番好きな言葉でもあります。 まあ、暖かく見守ってやってください。 尚、このブログに書いてある人物や団体は実在しません。 又、文章をコピーして私の許可なく公開することはおやめください。 (恐らく一言言ってもらえると二つ返事でOKしますので...) |
オブラート越しのふたり2006-11-02 Thu 02:50
初めての方は、「カテゴリー」から各小説へ飛んでくださいませ。
1章から順に読めます。 又、先に作品紹介を読んで頂くとどんなものなのか、わかりやすい かと思います。 「私のせいであなたが地獄の苦しみを味わうなら、私なんて存在しないほうがいいんじゃないか」 孝子の一言はいつも恵一を悩ませる。 実際孝子はもう何年も恵一が一流の芸人として活動できるように支えてきた。そして恵一はそんな孝子の仕事での悩みや愚痴を聞いてきた。 孝子はごくありふれた会社員であり、恵一はそんな孝子に対してコンプレックスを持つことなくやってきた。もちろんそれは貴子の努力の成果であり、恵一もそこのところは理解している。 二人の現状とは関係なく、税金はかかり、新聞の勧誘はやってくる。夏になると電気代がかかり、冬になると食費がかかる。恵一の職業は歩合制に近いので明日はどうなっているか分からない。今のように孝子にぶら下がっているかもしれないし、ホームレスになっているかもしれないし、ゴールデン番組のロケで一切れ数千円の牛肉をほおばっているかもしれない。しかし恵一はそれでもめげずにやってきた。現状に満足はしていない。しかし自分のやっていることに自信はあった。 孝子の一言には恵一がいくら考えても分からないものが多い。しかし、今までは何とか判ってきた。分かっているつもりだった。でも今度ばかりは理解できない。 「俺が迷惑ならそういえばいいんじゃないの?」 恵一の言葉は孝子だけでなく、誰が聞いても、いつもとげがある。本人もそれを分かっているつもりではあるのだ。 「昨日観てきたお芝居で、学生の俳優さんが言ってたの 『あなたの一言は私の人生全部を否定するぐらい鋭い』って」 孝子の考えはすぐに分からない。恵一は席を立ち、二人がいつも使っているグラスを取り出して、ビールを注いだ。恵一はビールの泡が好きだが孝子は口の周りに泡がつくのが嫌であまりビールを飲まない。 「いつも言ってるけど、私の考えてることなんて私以外の人には理解できないんだから」 「他人に噺をする人間の俺でも、他人が言ってることなんてホントには判っちゃいないんだよ」 ここ数年は毎日一緒、夜は。でも、お互い昼は何してるのか判らない。たとえ携帯電話で繋がってるつもりでも、電話の向こうの相手の声は時に自分が聞いたことのないぐらい楽しそうだったり悲しそうだったりする。 自分の見たことが無い孝子の声、恵一は悔しくて仕方がない。しかし孝子は恵一の思っているように気が強いわけでもない。恵一はそのことに気づいてない。たとえ孝子がふらふらになって帰ってきても、恵一は孝子のプライドに触ってはいけないと、なるべく孝子が楽だと、恵一が勝手に思い込んでいるだけだが、思うように接する。窓の外に赤みを帯びて、人を誘う月があっても二人は気づかない。いや、気づいてというより、「気を利かせて窓を開けて月を見る」ことはある。 ちなみに孝子は只今妊娠7ヶ月である。産休はぎりぎりまで取らないつもりでいる。仕事がすきなのだ。孝子の両親はこのことをまったく知らない。というより、恵一のことも知らない。子供服を売っている店の前を通るたびに生まれてくる子供のことを考える。 「夕日って胎教にいいのかな?」 「はあ?」 恵一の考えることもいい加減難しいのだ。ただ、孝子の口から出てくる言葉が、恵一にとってあまりに難しく、恵一には孝子が時にロマンチスト、もしくは難解な書物を意図も簡単に読み解いてしまう大学教授のように思える。 「夕日なんて感傷に浸るための道具なんでしょ」 「なんでさ?」 「だって、テレビなんかいつだってそうでしょう。夕日をバックにするとあなたのキレのある漫才だって単なる会話なのよ。」 「...おれはね、君と、子供のことしか考えられないんだよ。」 「!」 孝子の顔が見る見るうちに紅潮してゆく。何が気に食わなかったのか、孝子の表情は誰の目にもあまり良いようには写らない。孝子は下からの、まるで、散々鞭で打ち据えられて恨みを目いっぱい蓄えたような目線で、それも今にも喰らいつきそうな、しかしいつもより大分低いトーンで、 「あなたは仕事が大事じゃないの?私はあなたが仕事で成功してほしいのに!...あなたは今、仕事なんか忘れてる!」 一言だった。 恵一にはそれが痛いほど響いた。しかし、恵一には...、自分を表現するという、芸人としては重要な人生のツールが、弱々しかった。 何もいえずに呆然とするしかない。恵一にはそれすらゼイタクに思われる。 恵一のせめてもの返事は、こう。 「だからって俺はお前抜きでは人生成り立たない!人が何を言っても、俺はお前がいないと何もできない!駅に歩いていくのも、舞台に上がるのも、飯食うのも、風呂はいるのも、全部お前がいなかったら今みたいじゃない!」 なんと不器用な言葉なのだろう。恵一は孝子に感謝しているつもりなのだ。恵一は自分の一挙手一投足、全部孝子が絡んでると思うくらいに孝子を愛している。そして孝子はそれを感じられるぐらい頭が良かった。 孝子に腕を回し、きつく抱きしめる恵一。その手は孝子のわき腹が少し。不自然に張っている事を確実に感じ取っていたが、恵一がそれに気づくことは無かった。 一章おわり 二章に続きます |
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